前回、花粉症のお話をしましたので、今回も花粉にまつわる話を一つ。

春先になるとベランダのコンクリートの上でウヨウヨしている赤いダニがいます。いつのまにか家の中まで入ってきて、潰すと血液のような色をしているので、血を吸われたのではないかと嫌われています。
長年、正体を知らなかったので調べてみました。正式名は「カベアナタカラダニ」といいます。1980年代以降になって日本全域で発生していますが、その起源を遺伝子検査してみるとドイツ語圏内(ドイツ、オーストリア、スイス)だそうです。

あの不気味な赤い色は一体なんでしょう。日当たりの良いコンクリート壁は、強い紫外線と40度以上にもなる輻射熱にさらされています。通常のダニなら死滅してしまいます。その酸化ストレスから身を守るため「カロテノイド」という色素を持っているのです。

カロテノイドの語源は「キャロット」すなわちニンジンです。ミカンやトマト、ニンジンに含まれている脂質群のことをさし、ビタミンAの前駆物質であるβカロテン、リコペン、アスタキサンチンが知られています。全て紫外線や外的な刺激から身を守るための抗酸化物質です。

同じダニ類で、ミカンの葉上で強い日光にさらされているミカンハダニは、ミカン由来カロテノイドで抗酸化作用の強いアスタキサンチンを持っていることが知られています。

そこにヒントを得て、近年、法政大学と京都大学の研究グループが、この赤いダニの色素を分析したところ、その6割はアスタキサンチンであることが判明しました。
アスタキサンチンの抗酸化力は、βカロテンの10倍、コエンザイムQ10の800倍、ビタミンEの1000倍、そしてビタミンCのなんと6000倍です。

しかも赤いダニのアスタキサンチン濃度はミカンハダニの127倍もの量で、これまで知られている動物の中で最も高いレベルでした。

私たち地球上の動植物は、細胞の中にあるミトコンドリアで酸素と一緒に栄養を燃焼してエネルギーを得ています。このときに「活性酸素」が生じます。活性酸素は周囲の細胞を酸化して老化させます。これを防いでくれるのが抗酸化物質です。そして抗酸化物質の頂点にあるのがアスタキサンチンなのです。
アスタキサンチン入りの化粧水は大変効果があるといわれていますが、値段の方も大変高価でなかなか手に届きません。
あの赤いダニは動物の血を吸うのではなく、なんと花粉を食して大量のアスタキサンチンを生成していたのです。意外にいい奴なので、あまり嫌わないでやってください。

以上、ナグモクリニック総院長 南雲吉則による
「花粉症になってよかったこと」のご紹介でした!


著者プロフィール
南雲吉則(なぐもよしのり)
1955年生まれ。慈恵医大学卒業、乳腺専門医、医学博士。バスト専門のナグモクリニック総院長として東京・名古屋・大阪・福岡で診療を行うかたわら、若返り・ダイエットのベストセラー書籍多数。分かりやすい解説が好評で、テレビ出演や講演に多忙な毎日を送る。近年は、がん患者の命を救う食事と生活術「命の食事」を提唱。国内外の医科大学の客員教授、非常勤講師。

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